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移籍制度について

昨今鹿島アントラーズの中田浩二選手がフランスのマルセイユに移籍するという問題がスポーツ紙の紙面を騒がしています(内容にどれほど信憑性があるのかは知りませんが)。
移籍にあたっては、移籍金がかからないというような報道もされているようです。
移籍元の鹿島アントラーズはJFAの規定に沿った満額の移籍金を要求するものの、移籍先のマルセイユは安価な移籍金を提示し、交渉は決裂したものの、鹿島アントラーズとの契約満了を持ってマルセイユと契約を締結するというのが報道の概略だったかと思います(あまりちゃんと読んでいないので間違いがあるかも知れません)。

過去には当時ジェフユナイテッド市原に所属していた廣山望選手が、パラグアイのセロ・ポルテーニョに対してやはり移籍金なしで移籍したということがありました。
この時もやはり物議をかもしたかと記憶しています。

で、ここで触れるのは中田浩二選手や廣山望選手の移籍についてではなく、その移籍のシステムについてのことです。
JFA(日本サッカー協会)の規定には、プロ契約には「統一契約書」を用いることが定められています。ですから、目下のところ、日本人プロ選手の契約はJFAの規定に基づいて行われています。
例えば契約期間満了後も30ヶ月間は元所属クラブに一定の権利(移籍金受取りなど)が残存しているのは、JFAの規定によるもので、統一契約書を用いて契約を行っている以上、契約の当事者はそれを了承しているものと見なされるかと思います。

一方でFIFA(国際サッカー連盟)はUEFA(欧州サッカー連盟)の移籍制度を全世界的に共通な移籍制度として定めているわけですが、ここでの問題はFIFAの規定は、各個の契約それぞれに効力を及ぼすものではないということです。

つまり、FIFAはJFAに対して規定を通知して、それを遵守させるように努める(あるいは強制する)権限があって、JFAは各クラブ、各所属選手に対して同様の(あるいは「統一契約書」の規定を変更する)権限をもっており、各個の契約については、契約当事者双方が同意することにより変更することができるのです。
従って、FIFAが自らの規定を守るようにいい、JFAがやはり自らの規定を押し通した場合には、FIFAはJFAに対して指導するなり、支持を与えるなり、罰則を与えたり、最悪の場合は除名したりという手段で従わせようとします。
JFAはそれに応じて、自らの規定を変更し、現存の各個の契約については、一律に変更する場合でも、新規の契約から変更するというような場合でもクラブ側・選手側(選手協会など)と合意を得るなどした上で適用することになるでしょう。
そうした上で初めてFIFAの定める国際的な移籍規定が例えば鹿島アントラーズと中田浩二選手の契約に効力を及ぼすことになるわけです。

もちろん、JFAの現在の契約システムが日本国内の関係法令に違反しているとして裁判で争うこともできます。あるいは、日本国内の関係法令が国際的な慣習・法令に違反しているとすることも。
そうして争った結果、当該の契約について一定の変更なりを及ぼすこともできるかも知れません。それが結果的にJFAの規定などに影響を与えることも考えられます。
まぁただし、それはそれらの段階を踏んだ後の話で、現行の契約については、現行のJFAの規定に拠るということが契約の精神にのっとって正しいわけです。

したがって、例えば中田浩二選手が契約期間満了とともに移籍金なしで移籍を行ったとすれば、それは移籍元クラブと当該選手がそのように承認したからということになります(実際には承認していなくとも、システム的には承認したという扱いになるはずです)。

現在のJFAの移籍制度では、翌年1月31日に契約を満了する選手に対して、11月30日に次の契約を締結するか否かを通知することになっています。
そして、それから12月31日までは現所属クラブとの独占交渉期間として、それ以降は現所属クラブ以外との交渉も解禁される仕組みです。
そしてリーグ戦、カップ戦などそれぞれの規定による日時までにJリーグなどに登録されれば、晴れて移籍先クラブで試合に出場できるというわけです。

また、11月30日以前も含め、12月31日までは現所属クラブ以外のクラブが選手に接触することを禁止しています。このあたりは時々事前接触のあるなしで揉めるところでもあります。つまり、選手は12月の1ヶ月で次の年も同じクラブと契約するかどうか決め、実質的に1月の1ヶ月で次の所属クラブを決めることになるわけです。
また、契約期間(多くは1年)の中でどれだけ評価を上げても、あるいは下げても契約の内容は変わりません。

ちなみに、UEFAの移籍システムとはどういうものでしょうか?ここでは、PCゲーム「Championship Manager」の中の仕組みを例にあげてみます。
このゲーム自体は、かなり「リアルさ」を売りにしているものなので、それなりに現状に即しているのではないかとは思います。しかし、実際には現実と異なる(あるいは契約の内容次第だということも)可能性・部分もあるかも知れません。

まず、私も誤解していましたが、セガの「プロサッカークラブを作ろう」というゲームにあるように、契約期間の年俸を先払いする(2年契約ならば年俸×2を契約期間の始めに払う)ということはありません。
イギリスでは週給というのが一般的(サッカー選手以外でも)なようなのが面白いですが、Jリーグのプロ選手は月給で支払われている年俸、これは毎月とか毎週とか、決まった期間ごとにクラブが選手に払います。
2年契約だったら2年分の報酬を現金でプールしておくなんてことはないので、もしまかり間違ってクラブに現金がなくなると、給料の未払いとかが発生するわけです。

で、現在の報酬額(=クラブの評価額)を上回るような成長を見せたり、報酬額以上に活躍して実力を証明した選手に対しては、クラブ側から持ち出すのか、選手側から持ち出すのかは別として、新たな(報酬額の高い)契約を新たに締結します(現契約の途中でも)。
したがって、「サカつく」にあるように、契約期間途中で選手が成長して年俸が安すぎると文句を言ったりということはありません。
海外の報道で活躍した選手が「新しい契約を得た」とか言うのは、こうした報酬額を上げる契約をしたということになります(逆もあるはずですが)。

契約の最長期間は5年で、最短は多分定めがない?と思います。契約には報酬額とは別に、ゴールするたび、勝つたび、シュートをセーブするたび、試合に出場するたび、優勝・タイトルをとるたびなどのボーナスを決めますが、それとは別に契約金を支払います。
この契約金とは、アパートを借りる際の礼金のようなもので、契約を締結する際に、クラブ側から選手に対して支払います。
これはすぐに支払うお金ですので、クラブにはすぐに現金が必要になります。

また、さらに違約金というものがあります。
これは契約を満了しないで選手が移籍する場合に移籍先クラブが移籍元クラブに対して支払うもので、金額についてはその選手の評価額から両クラブ間の交渉で決まります。昔体重と同じ量のエビだか何かで移籍した選手がいましたね。
日本国内の移籍報道における「移籍金」とは、この「違約金」にあたるものと考えられます。

ですから、契約途中の選手を獲得するためには、相手クラブへの「違約金」、選手への「契約金」、契約で定められた契約金以外のお金(引越し代とかその他)、それに多分最初の1週間だか、1か月分だかの報酬額が多分現金としてすぐに必要になるというわけです。

契約途中で新たな契約を結んで、そこでまた何年だかの契約を満了する前に次の契約をと言うわけで、とんとん拍子に行けば契約が途切れることはないわけですが、選手がそれほどの活躍を見せられなかった場合や、実力があっても監督とそりが合わないとかという選手は、新たな契約が提示されないこともあります。
そうした選手は、契約切れの期限の6ヶ月前から他クラブと次の契約について交渉できます。
いわゆる「フリー・トランスファー」、「0円移籍」と言うのは、こうして他のクラブと次の契約を締結して移籍することをさします。
昨今は欧州もサッカーバブルが沈静化して、このような形の移籍が増えているということです。
こうした形での移籍では、普通報酬額は上がりません。
それでも報酬額が上がったりするのは、何か曰くつきのケースですね。

で、例えば契約切れ6ヶ月前を迎えるまで、どんなに現所属クラブから高額のオファーを受けてもごね続け、自分の行きたいクラブと(現所属クラブよりも低い金額で)次の契約を結ぶケースもあります。この場合、国際的なその選手の評価は、報酬額が下がった分、下がってしまいますので、その次の契約が不利になるわけです。
よほどクラブ間の評価に違いがあっても、そうした手立てをとることは、選手自身の損失になるわけです。

原則としては選手は、より高い報酬額、契約金を提示してくれるクラブを選びます。もちろん、スポンサーとの関係やCMの契約などによって、クラブからの報酬額以外の収入が判断基準に入る場合もあります。
こうしていくと結局お金を使うクラブが好きなことができるから、どんなクラブも多少無理をしてもお金を使ったほうがいいと思われがちですが、たいてい理事会に報酬額として使える予算、契約金として使える予算というのを決められていますし、リーグや協会からの監査を受けるため(罰則としては勝ち点剥奪やリーグ降格などがあります)、体力以上はお金を使うことができないという制限があります。
したがって、こうしたやり方は健全なクラブ経営を保証する監査制度と切っても切れない関係にあるわけです。

あと、チーム構成で今は使えないけど、将来に備えて試合勘を無くさせたくないとか、契約途中だから切れないが、報酬を支払うのももったいないというような選手は、「移籍リスト」や「ローン(期限付き移籍)容認リスト」に記載されます。
そうすると、移籍リストに載せた選手は普通、現所属クラブも違約金を取るつもりはありませんから、お金のないクラブがその選手と交渉したり、貧乏だからその選手は獲得できないけれど、降格危機だとかで緊急に選手が欲しいクラブとかがローンの交渉をしたりするわけです。
従って、そうしたリストに載った選手は、「現」チームには不要というニュアンスがついてしまうので、評価を下げてしまいがちなのです。

日本人の海外移籍でよく行われる「期限付き移籍」ですが、そうした意味で移籍元で「不要」な選手ということで、相手クラブがなかなか重視してくれなくなってしまうのです。
また、ローン移籍先のクラブ(たいていはトップではないクラブ)にとっては、ローンで一時的に所属しているだけの選手を仮に実力があったにしても、積極的に起用するのはその選手の評価を上げるだけで、自分の利益にはならないため、よほど切羽詰らなければ、ローン中の選手よりも多少実力が劣っても、自クラブに所属している選手を使うことを選ぶことは容易に想像がつきます。
期限終了後の完全移籍オプションにしても、いい活躍を見せたときの相手クラブの優先交渉権を追加するというだけのことで、選手や元所属クラブにとっては不利な条項です(ローン中の活躍でオプションで定めた金額以上に評価額が上がっても主張できない)。

と、まぁこんなところで、次に上にあげたような契約システムが日本に適用されたときの変化を考えてみます。

  • まず、契約更新の時期が各選手でバラバラになります。契約更新の時期だから天皇杯はみんなやる気がないとか言われることがありますが、それが事実だとしても、それは選手ごとにバラバラな時期にバラけるわけです。
  • また、需要の高い選手の報酬はさらに上がります。一方でそうでない選手は下がります。ポジションやクラブなどによっても格差は広がるでしょう。
  • 代理人の人数は恐らく足りなくなります(一方で山岡淳一郎著「マリオネット」でシェーファー監督やオジェック監督が語るように「一人前の男なら代理人など通さずに自分の契約は自分で決める」という考えの人も少数派かもしれませんがいるでしょう。ロマンチストはどんな時代、どんな土地にもいるものです)。SFX社のようなマネジメント会社が設立されることも考えられます(今でもありますが)。
  • 選手とクラブとの関係は多少明文化されるかもしれませんが、実際のところ大勢はそれほど変わらないでしょう(日本人で日本の文化の中に育っているということは変わりませんから)。
  • 財政的に裕福なクラブが有利になります。欧州各国のリーグにあるように、上位のクラブと下位のクラブの格差は多少は広がるでしょう。
  • 選手の移籍はもっと活発に起こることになりそうですが、選手の評価などに全てのクラブがきちんとした体制を整備できているわけではないことや、あまり争いを好まない日本の風土などから、むしろ現所属選手との契約を守る方向に進むかもしれません。
  • 経営面ではクラブに時に大きな負荷を掛けることがあります(特に裕福でないクラブが成功のスパイラルに乗ろうとする時)から、協会、リーグ側の経営の審査はより慎重さが求められるようになります(日本の風土では沈み始めた者をよってたかって叩く傾向がありますから)。
  • 金のかかる中堅選手の獲得より、青田買いに走る傾向が強まる可能性があります(現に欧州では盛んです)。横並び意識の強いこの国では、どのクラブも同様に青田買いをするでしょう。すると高校などの教育機関では摩擦が起こる可能性もあり、それによっては、より各クラブの下部組織が重視され、人材の集中が進むかもしれません。
  • 下部組織では、より年少の選手のスカウトが強化され、しかしながらやはり理想主義とのバランスもとられつつ、結果的には各年代で「人気がある」、「富裕(少なくとも堅実)」、「地元」などの魅力を持つクラブへの集中化が進むのではないでしょうか。
  • 欧州では「若い選手を育てて売るクラブ」、「実力のある選手を買って勝つクラブ」に別れるといいますが、日本ではそこまでの分化は進まないでしょう。 富裕なクラブも相変わらず選手を育てようとするでしょうし、貧乏なクラブは時折エース格を売ることがあっても、基本的には所属選手を守ろうとするでしょうから。
  • 下位リーグのクラブが現Jリーグクラブが無いような、高校出の選手が大学サッカーへも進まず消えていくような地方まで広がれば、そうしてそういうクラブで掘り出し物のような選手が度々出るようになれば、また別ですが。

今回の中田浩二選手の件でもそうですが、どうも日本人は(民族論に収束させるべきものではないかもしれませんが)外圧に頼ったり、既成事実を作ることで環境を変えようとする癖があります。
多くの実績があり、国際的な環境に合わせることで長期的にはメリットもあるでしょうが、短中期的には大きな混乱も予想されます。
果たして未来がそこにあるのか、乗り越えなければならないリスクはどれほどのものか、覚悟しなければならない犠牲はいかなるものか、勢いだけで突っ走るのではなく、いろいろなものを考慮に入れた上で選択すべきものではないでしょうか。

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