いよいよユナイテッド戦ということで、朝から皆そわそわしています。
前回のボカ戦のとき、バスがマンチェスターにつくのに6時間半かかって、19時からの試合開始ぎりぎりの到着になってしまい、スタジアムに併設されているメガストアに寄ることもできなかったので、もう少し早く出発して欲しいというツアー参加者からの要望が通り、前回12時出発であったのが、今回は1時間早まって11時出発となります。
また、途中の休憩も前回は2回取ったのを1回減らして、時間短縮に務めます。
今回は19時からがボカ-PSV戦で、その後の21時からレッズ-ユナイテッド戦の予定ですが、その前にマンチェスターユナイテッドプレミアカップ(かつてナイキプレミアカップといっていた大会)の世界大会決勝が17時から行われます。時間的にはちょっと微妙(18時30分到着が1時間早まっても試合開始後だから)と思っていましたが、バスはラッシュの時間帯を外れたことも幸いしたのか、16時ごろにマンチェスターに到着しました。
マンチェスターユナイテッドプレミアカップの決勝は、マンチェスターユナイテッドvsマンチェスターシティのマンチェスターダービーとなっていました。
日本代表の柏レイソルユースは7位ということで、決勝戦を他の敗退チームの選手たちと同じ一角に陣取って見ていました(試合前のメガストアで買い物もしてましたが)。
試合の方は大柄な選手揃いの水色ユニのシティと小柄なテクニシャンもいる赤色ユニのユナイテッド(とは言っても両チームの平均身長は中2にして175cmくらいは越えてたんじゃないでしょうか?)の対戦でしたが、一瞬の隙を突いて先制したシティがそのリードを守りきり、敵地オールドトラフォードで優勝を飾りました。
向こうでも応援は父兄が中心のようでした。また、「ダービー」で連想されるような殺伐とした雰囲気はこの試合に関してはありませんでした。
試合後には電光掲示板に「Congratulation Manchester City」とメッセージが出ていました。
The City U15's toppled Manchester United in the final of the Nike Premier Cup to become the unofficial World Champions in their age group.
この試合の最中から雨が降ってきます。しかし、雨はずっと降り続くわけではなく(こちらではそういう降り方をするそうです)、降ったり止んだりを繰り返します。
ボカ-PSVの試合が始まり、ボカが1-0でリードしている後半、何か英語のアナウンスがあって観客がブーイングをします。
しばらくして、再び英語のアナウンスがあると、今度は皆拍手をしています。
やがてボカ、PSVの両チームの選手が室内に引き上げ始めたので、中断したんだなぁとわかります。
この頃、雨がかなり激しくなってきて、稲妻がきらめき、遠くに落雷した雷鳴が轟きます。
天井のあたりでもバチッとショートしたような音がします。
この調子で降り続いたら、ピッチに水たまりとかできて面白くなくなるかなぁなどと思っていました。
大型ビジョンにボカが1-0で勝っている順位表が表示され、先ほどの試合がボカの勝利のまま終わったことがわかりました。
そして、大型ビジョンに変な日本人が映ります(これは通訳の人でした)。
ユナイテッドのコメンテーター?の人の挨拶を訳してしゃべっています。
「ようこそ浦和レッズサポーターの皆さん」云々というやつですね。
最後に、その通訳の人にあわせ、「うらーわレッズ」とコールをします。
周辺の席を見ると、地元らしい子が、「ウワーワレッズ」とか言っていたりしていました。
かと思うと、「ユナーイテッド」(リズムは一緒なんです)と言っていたり、Tシャツやレプリカの胸のユナイテッドのロゴを誇らしげにこちらの席に示していたりする子もいました。
まぁ嫌がらせ(ってほどのことでもないけど)なんですが、子供がやってると微笑ましいですね(笑)
この頃、雨は降り止んでいました。
やがて時計が21時に近づき、我々は固唾を飲んで選手入場を待ちます。
その頃、レッズ応援席では試合開始を迎えるため、いろいろな準備が済んでいました。
赤・白・黒の風船を客席に配り、膨らませてチームカラーの模様を作ります(これは普段の試合でも良くやります。用が済んだら、風船は割ります)。風船は全員分が用意できなかったので、応援席の左半分くらいの人に配られていました。
段幕も、どうやって持ってきたんだろうという大きなものも含め、所狭しと張りまくられます。
時計の針が21時を過ぎ、5分を過ぎてもまだ選手が入場しません。
「?」と思っていると、しばらくして英語のアナウンスがあり、今度はひときわ大きなブーイングが起こり、観客が帰り始めます。
これを見て日本人観客席でもざわつきます。
「サスペンド」っていってなかったか?とか、噂が飛び交います。
ざわめきの中で、風船を割る音が聞こえます。
私は、今割っちゃって、本番が始まったらどうするんだと思っていました。
先ほどの通訳の声で日本語のアナウンスが流れます。
「残念ながら…」と始まったところで、猛烈なブーイングでかき消されます。
私も立ち上がって何か(文句を)叫んでいました。
ブーイングは日本人観客だけではありません。まだ席に残っていた(たぶん地元のイギリス人)サポもあわせてブーイングしています。
一箇所に固まっていたPSVサポも。
やがて2人のイギリス人?サポがピッチに乱入して皆の拍手喝采を浴びます。
すぐに取り押さえられましたが、どこかに引っ立てられていくときは、まるで英雄であるかのように賞賛されていました。
誰かが「うらーわレッズ」とコールを始めます。
何がしたかったのか、何を伝えたかったのか、それは人それぞれだと思いますが、すぐにみんなが一緒に「うらーわレッズ」とあわせてコールするようになります。
それからチームのコールをとにかく何でも続けます。
最後には「Sailing」まで。
まぁ、途中からコールで何かを伝えようとすることよりも、コールすること自体が目的になっていたきらいもありますが。
boysの子も何人かいましたが、このコールは、誰かが先導したというより、自然発生的にやりたい奴が始めたという感じでした。それだけに何かしらの感情が剥き出しに、無方向にこもっていた感じがします。
それにあわせてか、PSVサポも何か自分たちのコールをしています。
お前らはいいだろ、途中まで試合見れたんだしとか思いましたが、もうそうして騒いでいることが楽しそうです。
やり切れない気持ちを抱えていると、boysを中心に「仕方ない。引き上げようぜ」「次は自力で来ようぜ」と事態を収拾にまわります。
正直瞬時に気持ちが切り替わったわけではありません。
でも、仕方ないのです。
いつまでもここにいても、どうにもならないのです。
実際、トラム(路面電車)も雷のために運休になっていたようで、22時近くなり、急速に選択肢は少なくなっていました。
私たちは騒いでいても同情を買うことができるかもしれませんが、他のサポーターやスチュワードなどの運営スタッフやクラブなどには迷惑をかけることになるかもしれません。
世界が今日で終わるわけではないし、浦和レッズの歴史もこれからまだまだ続く、自分はこんな歴史的な瞬間に立ち会ったんだ、とそう考えて無理やりにでも納得して通路に引き上げました(そんなこんなで、ギドが何か説明に来たらしいことは知りませんでした)。
そう思うと、ユナイテッドのスタッフ達は、先ほどのピッチ乱入男を取り押さえたときのような鬼の形相ではなく(いや、あの時もそうでなかったかもしれません)、本当に気の毒そうな、申し訳なさそうな表情をしています。
確かに早いところスタジアムから出そうとしているわけですが、そんな様子を見て、いくらかはこちらのわだかまりもほぐれました。
いや、試合中止ということ(ユナイテッドとは引き分けということになったようですよ)で、大会の結果の順位とかはどうでもいいとしても、損害は発生するし、大会を実施した何かの意図を考えた場合、中止したことでやはりこの大会自体が失敗したと考えても間違いないでしょうから、その決断は恐らく苦渋のものであったであろうことがわかりましたから。
しかし、自分の好きな、愛して止まないチームが、あのマンチェスターユナイテッドと、あのオールドトラフォードで対戦するという、そして自分が応援する立場でそれに参加するという、まるで夢みたいな話は、夢のままで終わりました。
「夢の劇場」("Theater Of Dreams" =ボビー・チャールトン卿がOld Traffordを指した言葉)によっても、その夢はかなえられませんでした。
中止の決断の是非については、判断できる立場にも、知識も私にはありません。
確かに皮肉にも、中止された頃には、雨も雷も止んではいましたが。
我々は重い足を引き摺ってロンドンへ帰りました。
我々のツアーを引率してくれたブライアンが「何にも言えませんけど、残念でした」と言ってくれましたが、別に貴女が悪いわけではありませんと皆が言います。
というか我々は、少なくとも私は、何人の同情も欲しいとは思いません。
まだ我々は、ロンドン宿泊で大変だったけれども、ロンドンの各所を見て来れた(マンチェスターには大して見るところがないそうですから)し、少なくとも3日の試合を見て、本気になったボカのプレー、パレルモやカンヘルの美しいゴールを見ることができました。売り出し中のサハやアラン・スミス、ギグスやファン・ニステルローイ(PSVとの試合後、負傷のため長期療養が必要になったようで、本当に貴重になってしまいました)、ジェンバ・ジェンバといったユナイテッドのメンバーのプレーをオールドトラフォードで、生で見れました。
ツアーの中には、23時にならないと迎えのバスが来れなくてスタジアムで足止めを食ったものもあるそうですし、何より5日の試合だけを見に日本を出た人たちは、この中止劇を見にきたようなものですから、彼らに比べれば我々の立場はずいぶん幸せなものです。
出発が早かったのと、雨天で交通量が少なかったこともあるのでしょう、ロンドンには2時ごろに戻りました。
途中のサービスエリアではチキンパイを食べました。これはこれでうまかったですよ。
ロンドンの夜は静かに(いや、都心に近いんで実は暴走車やら学生のパーティーやらで結構うるさかったですが)更けていきました。